内閣総理大臣認定:適格消費者団体 特定適格消費者団体 特定非営利活動法人 埼玉消費者被害をなくす会
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差止請求・被害回復関連

(株)ディー・エヌ・エー差止請求訴訟判決を受けて

 

適格消費者団体・特定適格消費者団体

埼玉消費者被害をなくす会 訴訟代理人団

1 判決の内容

 本判決は、①適格消費者団体による差止請求においては、「差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることのできる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときには、消費者契約法12条3項の適用上、当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。」(判決文17頁)、と判示しました。

 ②その上で、株式会社ディ―・エヌ・エー(被告)がモバゲー利用規約で使用している規約7条3項は、(ア)文言から読み取ることができる意味内容は、著しく不明確を欠き、複数の解釈の可能性が認められること(同20〜21頁)、(イ)被告は、本件規約に規定する「判断」とは、合理的な根拠に基づく合理的な判断を意味すると主張しながら、そのように文言を修正することを拒否していること(同21頁)、(ウ)全国消費生活情報ネットワークシステムに記載された会員からの相談でも利用停止措置等の理由の説明がされず、返金を拒まれているなどの相談が複数存在することから(同21〜21頁)、被告は、「文言の修正をせずにその不明確さを残しつつ、当該条項を自己に有利な解釈に依拠して運用している疑いを払拭できない」ところであり、消費者契約法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、消費者契約法8条1項1号及び3号に違反する事業者の責任を全部免責する不当な条項である(同22頁)、として差止請求を認容しました。

 一方で、規約12条4項については、規約7条3項により免責される場合と独立して責任の全部を免責することを定めたものではない(同23頁)として(つまり規約7条3項の差止めを認めれば足りるとして)、請求を棄却しました。

2 判決の評価

(1)本判決は、主文としては一部認容という結論ですが、判決内容は、ほぼ全面的に当会の主張を認めたものであり、実質的に全面勝訴と評価できます。

 被告は、訴訟から判決に至る経緯の中で、当会が訴状で掲げた条項のうち、2つ(規約4条3項、同10条1項)については、既に修正しており、規約7条3項の差止が認められれば、規約12条4項が不当条項として適用されるおそれは本件では事実上なくなります。本判決が規約7条3項の不当条項性を認め、差止を認容したことから、訴訟の目的は達せられたと言えます。

(2)本判決は、「契約条項が不明確な場合と消費者契約法12条3項における消費者契約の不当条項該当性の判断のあり方」という総論を設け、差止請求訴訟において、事業者が差止め請求の対象となる条項の文言を限定的に解釈することによって不当条項に該当しないと主張する場合において、当該条項の意味を確定する基準について、はじめて明確な判断基準を示した裁判例と評価できます。

 すなわち、①「事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものとなるよう配慮する努力義務を定めている(消費者契約法3条1項1号)こと」(同16頁)、さらに、②「差止請求制度は、個別具体的な紛争の解決を目指すものではなく、契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたものであること」(同17頁)を正しく言及して、判断基準を導いていることからも、極めて価値の高い判決だと言えます。

(3)いずれにしても、不当条項として解釈運用されるおそれがある条項について、限定解釈を施すことによる差止請求の対象ではなくなるという被告の主張が認められるならば、差止請求訴訟制度を用いた不当条項の排除という消費者被害の事前予防はほぼ不可能になってしまうおそれがあったところですが、本判決により被告の主張を的確に否定したことに安堵しています。

 被告が用いている条項は、インターネットを利用した商品の販売やサービスを提供する業者に少なからず見受けられる条項ですので、これらの事業者が本判決を契機に約款の条項を自主的に見直し、修正をすることを期待しています。 

判決文はこちら【PDF:976KB】

(別紙詳細)

a 訴訟から判決に至るまでの経緯

 当初当会は、被告(株式会社ディ−・エヌ・エー、以下単に「被告」という)の規約のうち、4条3項、7条3項、10条1項及び12条4項の4つの規約の差し止めを求めていました。しかし、被告は、当会の訴訟提起後に、4条2項及び10条1項(具体的内容については訴状、判決等を参照してください)については、消費者契約法8条に適合する形に修正したので、当会は、これらについての差止請求の訴えは取り下げ、残された7条3項及び12条4項について、差止請求訴訟が判決まで継続されたものです。したがって、上記二つの規約の消費者契約法8条1項1号及び3号に該当する無効とされる免責条項であるかどうかが争われました。

※規約7条
モバゲー会員規約の違反等について
3項
当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は一切損害を賠償しません。
同12条
当社の責任
4項
本規約において当社の責任について規約していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。

b 被告の主張の問題点

 本件で、最大の争点となったのは、規約7条3項と12条4項の条項をどのように解釈するかという点です。規約7条3項にある「当社の措置」は、同7条1項で定められた事由に該当する場合に被告がとる利用停止措置や会員資格停止措置を指します。そして、規約7条1項には、「当社(=被告)の判断」でその該当性を判断できる条項(たとえば、「モバゲー会員として当社が不適切であると当社が判断した場合」という規定)が存在します。この条項について被告は、合理的な根拠に基づく合理的判断という意味であると主張するとともに、仮に誤って適用した場合には規約7条3項の「当社の措置」には該当しないことになり、規約12条4項の適用があり賠償されることになるので、規約7条3項は消費者契約法8条1項に違反しないと主張しました。

 被告の主張は、条項を限定的に解釈することによって、その条項の適用範囲を狭めて不当条項性を回避する解釈手法です。

 個別訴訟という事後的な救済を求める裁判の場においては、いずれの解釈をとっても、条項が有効に適用される範囲は結果においては、変わりません。しかし、当事者が契約を履行する場面では、当事者は文言を基準にして条項解釈をしますし、事業者が限定的な解釈で当該条項を運用するとも限りません。実際、国民生活センターの苦情・相談例では、当該条項を基礎に門前払いをされる相談例も複数ありました。そもそも消費者契約法3条において疑義のない条項を用いることを要請されながら、自ら不明確な条項を用いた事業者が差止請求の場面で差し止めを免れるために、都合よく限定的な解釈を主張することができることになれば、差し止め請求訴訟の意義は、不当条項規制の場面ではほとんどなくなってしまいます。

c 本判決の課題

 本判決は、適格消費者団体による差止請求において、事業者が条項の文言からは読み取りづらい限定的な解釈を主張して、消費者契約における不当条項性を免れようとすることに一定の歯止めをかける判決で、その意味では貴重な裁判例です。

 しかし、判決が示した基準には、事業者が実際に当該条項について自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなどの実際の事業者の運用の状況があげられていることや単に「明確性を欠く」ではなく、「著しい」という基準があげられているなど、取り方によっては、かなり限定的とも評価できる基準といえます。

 ただし、上記の基準に該当しない事業者は、適格消費者団体の指摘に対して真摯に対応し、自ら修正に応じる事業者がほとんどといえますので、本件同様、訴訟において頑なに修正を拒む態度が認められるなどすれば、当該基準を満たす余地は十分にあるといえます。

 今後は、訴訟の場面でも、事業者の自主的な修正を促すこととこれに対応する被告側事業者の訴訟態度を明確にすることによって、上記要件の充足性を主張、立証することが重要であると考えます。

以上

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