Agoda Company Pte.Ltd差止請求訴訟和解に関する弁護団コメント
令和8年9月8日
適格消費者団体
特定非営利活動法人
埼玉消費者被害をなくす会
1 問題となった利用規約の内容
本件で差止請求の対象とした利用規約は、「Agoda Company Pte.Ltd」(本社:シンガポール 以下、アゴダ社といいます。)が提供する予約プラットフォームやサービスについて、アゴダ社又は関係者の故意又は重過失によって消費者が損害を被った場合でも、アゴダ社又は関係者の損害賠償責任を包括的に免除又は制限する内容を含むものでした。
また、アゴダ社が一方的に理由なく予約リクエストを拒否し、又は確定した予約をキャンセルできるとする条項、過大請求又は誤請求について消費者の申立てを民法より消費者に不利に制限する条項、消費者に広範な補償義務を負わせる条項も含まれていました。
これらの条項は、事業者が本来負うべき債務不履行責任又は不法行為責任を、消費者契約法第8条に反して免除・制限するおそれがあり、また、消費者の権利を制限し、又は義務を加重して信義則(※)に反し消費者の利益を一方的に害するものとして、消費者契約法第10条に該当するおそれがあると考えられるものでした。
※信義誠実の原則の略で、法律関係にある当事者は互いに誠実に行動し、相手の信頼を裏切らないようにしなければならないという民法上の大原則
2 和解による修正内容
本件和解により、アゴダ社の予約プラットフォームの利用規約について、当会が指摘した問題点を全面的に解消する修正が行われました。
- 責任免除・責任制限に関する条項について、アゴダ社又は関係者の故意又は重大な過失による場合には免責・責任制限の対象とならないことが明確化されました。
- アゴダ社による理由のない予約リクエストの拒否及び確定予約のキャンセルを可能とする内容は改められ、規約違反、詐欺又は悪用、同社の合理的な管理を超える事由、システム保守、旅行サプライヤー側の事情、利用者入力情報の誤りなど、拒否又はキャンセルが認められる事由が具体化されました。
- 過大請求又は誤請求に関する申立てについて、民法より消費者に不利となる文言が削除され、誤りのある請求について申立てができることが明確化されました。
- 消費者の補償義務について、利用者のプラットフォームへの単なるアクセスやサービス利用一般を広く対象とするのではなく、違法、不適切又は不正なアクセス・使用等に起因する場合を中心とする内容に限定・整理されました。
3 本和解の意義
オンライン予約サービスの利用規約は、多数の消費者に一律に適用され、消費者が内容を個別に交渉することは通常困難です。そのため、利用規約に不当な免責条項や一方的な権利制限条項が含まれていると、消費者は、損害が生じた場合の請求や、確定予約に基づく正当な期待の保護、誤請求に対する修正の申立てなどを躊躇せざるを得なくなるおそれがあります。
本和解は、そのような不当な利用規約を是正し、消費者が安心してオンライン予約サービスを利用できる環境を整えるために重要な意義を有するものです。特に、国際的なオンラインプラットフォームであっても、日本の消費者に向けてサービスを提供する以上、日本における消費者契約法の趣旨に沿った明確かつ平易な利用規約の策定が求められることを明らかにしております。
4 消費者と事業者に求められる対応について
オンライン予約サービスでは、プラットフォーム提供事業者自身が宿泊サービスを提供するものではないため、宿泊施設によるサービス不提供や品質不足については、プラットフォーム提供事業者が当然に責任を負うものではないことに留意する必要があります。このことは、オンライン予約サービスに限らず、オンラインプラットフォーム全般にあてはまります。
特に、国際的なオンラインプラットフォームにおいては、消費者の契約の相手方が海外所在の外国法人となる場合もあるため、事業者との交渉や法的措置をとることが難しいケースがあります。実際に、本件訴訟では、アゴダ社は日本における外国法人の登記をせず、日本国内においてアゴダ社の代理権限を有する者も設置されていなかったことから、外国送達を実施する必要があり、訴状の翻訳等を当会の負担で行った上、シンガポール共和国の中央当局を通じてアゴダ社本社に送達を行う必要があり、提訴(令和5年12月6日)から第一回口頭弁論期日(令和7年9月25日)まで、1年9か月もの期間を要しました。
消費者がオンラインプラットフォームを利用する場合は、利便性や表示価格のみに捉われることなく、プラットフォーム事業者が日本国内に存在する企業であるか否か、不測の事態が発生した際に国内で迅速に対応・補償を行う窓口が整備されているかといった点を十分に検討して利用することが重要です。
他方で、オンラインプラットフォーム事業者においては、日本の消費者契約法の趣旨に沿った平易かつ明確な利用規約を定め、日本国内に代理権限を有する者を設置し、万が一トラブルが生じた場合に消費者からの連絡に迅速に対応できる窓口を整備した上で、紛争解決のために積極的に対応ないし補償を行うことが求められます。
以上
